2020年、マーサーの2020 Global Pension Indexによると、オランダは「最高の総合年金制度」において1位を獲得しました。Global Pension Indexは、年金制度を(1)妥当性、(2)持続可能性、(3)完全性の3つの指標からランク付けしたものです。オランダは、3つの指標すべてにおいて平均を上回るスコアを獲得しました。

オランダの年金制度は、「賦課方式」と「個別運用方式」を組み合わせている点で高い評価を得ています。「ペイ・アズ・ユー・ゴー(=賦課方式)」とは、現在の年金受給者のために労働者が年金基金に継続的に支払いを行うことを指し、オランダの公的年金基金はこの方式を採用しています。また、個別運用方式は、個人的に年金を積み立て、公的年金をさらに補完するものになります。

オランダでは、年金拠出に関して3つの柱が存在します。それは公的年金基金(一般老齢年金、AOWとも呼ばれます)、厚生年金基金、個人年金基金です。今回は2本目の柱である厚生年金基金に焦点を当て、なぜ手配する必要があるのか、どのように設定するのか、また役立つリンクなどをご紹介していきます。

厚生年金基金

厚生年金基金は、雇用主と社員の間の合意の上で、外部の年金基金や保険会社によって運営管理される年金基金です。基本的にオランダの雇用主は、さまざまな厚生年金基金から自社にとって一番良いと思われるものを自由に選択することができます。

公的年金(AOW)は最低限を保障する非常にベーシックな年金制度であり、定年退職後に支払われる公的年金の最高額は定年退職時の給与の70%に相当する額でしかなく、さらにほとんどの労働者は最高額の年金を受け取るための基準を満たしていません。この理由により、オランダの企業では公的年金を補完するものとして、独自で手配した厚生年金制度をもっています。実際、オランダでは90%以上の雇用主が厚生年金制度を提供しており、また労働者も厚生年金基金への加入は最も基本的な福利厚生のひとつであると考えています。

セクターの厚生年金基金

建設業や製造業などの特定のセクターに属するオランダ企業は、企業年金基金またはセクターの厚生年金基金(Bedrijfstakpensioenfonds, Bpf)に参加しなければなりません。それらの雇用主は、社員(フリーランサーや自営業者を含む)をセクターの厚生年金基金に加入させる義務があります。

職業年金基金

オランダでは、公証人、医療、製薬、海運部門など、特定の職業集団に属する労働者に対して、特定の年金基金が設けられています。したがって、これらの分野で事業を展開している場合は、職業年金基金に加入する必要があります。

ABP年金基金

ABP年金基金は、教育部門や政府部門の機関で働く労働者のための年金基金です。

年金制度の手配方法

日系企業をはじめオランダ国外から進出してきた企業の多くは、オランダでの年金制度の導入プロセスがかなり複雑であると感じているようです。そこで、そうした企業担当者様のために、オランダの年金制度の導入の際に役立ついくつかのポイントを下記にご紹介します。

ポイント1:CAO(集団労働協約)を確認しよう(該当する場合)

CAOとは、集団労働協約のことで、特定のセクターにおける雇用条件を定めたものです。貴社の属するセクターでCAOが定められている場合は特定の厚生年金制度が設けられている可能性があります。まずは自社がCAOの対象か、またそこに厚生年金制度が設けられているかを確認しましょう。

ポイント2:自社の社員の特性を把握しよう

どのタイプの厚生年金が自社に適しているかを判断するためには、雇用する社員の特性を把握する必要があります。社員の年齢、性別、ライフスタイル、さらには国籍によって、老後に対する考え方が異なる可能性があります。例えば、既婚で家族のいる社員は、配偶者や子供も加入できる年金制度を重視するかもしれません。また、日本人をはじめヨーロッパ以外の国籍を持つ社員は、将来母国に帰国した場合も考慮した内容の年金である必要があります。

ポイント3:厚生年金制度を人材を惹きつけ確保するためのツールとして活用しよう

雇用主として、優秀な人材を惹きつけ、雇用市場での競争力を維持する方法を常に考えておくことは重要です。同セクターの競合他社が社員にどのような厚生年金を提供しているかを知り、それを踏まえた上で自社にあった厚生年金制度を選択することは、質の高い人材を集め、維持することに繋がります。

ポイント4:自社のビジネスニーズに合った厚生年金基金を探そう

オランダでは、厚生年金基金は外部機関や保険会社によって運営管理されています。それらのすべての厚生年金基金は非営利で、オランダ中央銀行(De Nederlandsche Bank, DNB)に報告義務を負っています。オランダ中央銀行に登録されている年金基金のリストは、こちらをクリックして確認することができます。

厚生年金基金のプロバイダーを選ぶ際には、以下の点に留意しましょう。

  • 顧客対応のクオリティ… 人事担当者や社員からの質問に丁寧に対応してくれる窓口があるかどうか。
  • 積み立てた厚生年金の移行に関する知識 … 社員が退職した場合、それまでに積み立てた年金の移行に関する知識をもっているかどうか。
  • 事務処理の代行の有無… 貴社に代わって必要な年金事務処理を代行してくれるのか、それとも現在の給与計算業務で十分かどうか。または仲介業者の利用を検討する必要があるかどうか。

厚生年金制度のプロバイダーを決定しセットアップした後、最後は社員の賃金から拠出金の一部を源泉徴収し、厚生年金基金とオランダ税務局(Belastingdienst)に雇用者拠出金を支払うための給与計算のセットアップを行います。これで厚生年金制度の準備・手配は完了です。

参考になるウェブサイト