オランダでスタッフを採用する場合、雇用契約書の作成はどの雇用主もが一番初めに行うことでしょう。雇用契約書は、労働者とあなたの企業の雇用関係の詳細を定めた重要な法的文書です。また、雇用契約書は、労働者と雇用主が有する権利および両者に期待される役割・責任を明確に理解するのに非常に役立ちます。
オランダおよびヨーロッパの一部の地域においては、雇用契約は必ずしも文書化されなくとも合法と見なされます。しかし一般的に、当社では雇用契約書を文書化することを強く推奨しています。なぜなら、雇用契約書を作成することは、企業を様々な法的リスクから保護することにつながるためです。今回のブログでは、オランダの雇用契約の作成において企業として検討すべきことを詳しく見ていきます。
雇用契約書は絶対に必要?
企業が雇用する労働者に対して書面形式で雇用契約を提供することについては、オランダの法律上義務付はされていません。しかし、一般的にオランダの労働者は企業から雇用契約書を受け取ることを期待しています。
雇用契約書は、雇用主と労働者の間で合意された各種条件を確認するための重要な資料となります。また、労働者へ書面で雇用条件を提示することは企業としてのプロフェッショナリズムを示すことにもつながります。また、言うまでもなく、企業にとって重要な多くの条項や要件(例:非競争条項や企業情報の非開示条項など)は、書面で労働者へ示された場合にのみ有効とされます。
法的レファレンスとして
上述のとおり、雇用契約の文書化は、企業にとってメリットしかありません。とりわけ、企業のリスクヘッジにおける法的レファレンスという観点からみると、文書化された雇用契約書はほぼ必須であるといってもよいでしょう。例えば、雇用契約書は解雇手続きにおける企業の法的レファレンスとして不可欠です。通常、オランダの解雇手続きは非常に複雑で困難ですが、雇用契約書上で労働者に求められるパフォーマンスや勤務態度を明確に定義し、労働者がそれに同意済みであることを企業が証明できることは、労働者のパフォーマンスや勤務態度に由来する解雇理由を説明するための重要かつ合理的な根拠となります。
雇用契約書に盛り込むべき項目
雇用契約をどのような形式で交わすかにかかわらず、オランダでは雇用契約に含めるべきいくつかの項目が存在します。オランダ政府の公式ウェブサイト上でも、雇用契約に含めるべき項目の推奨リストを見ることができます。
- 雇用者と被雇用者の名前と居住地
- 仕事が実施される場所(複数可)
- 労働者の仕事または業務内容
- 通常労働時間
- 給与額および支払時期
- 入社年月日
- 契約期間
- 試用期間の長さ(該当する場合)
- 休暇
- 退職通知期間
- 年金(該当する場合)
- 競業避止義務(該当する場合)
- 集団労働協約(CAO)の適用の有無(該当する場合は必須)
労働者の仕事または業務内容
労働者の責任と業務内容を簡単に明記することで、雇用主と労働者の労働関係を明確にすることができます。この項目は、両者の間に労使関係があることを証明するためにもカバーしておきましょう。雇用契約が法的に有効とされるには、(1)雇用主が労働者に指示を与えるという関係が成立していること、(2)労働者が与えられた責任を果たす義務を負っていることなどが少なくとも示されている必要があります。
給与額と支払時期
雇用契約書が合法と見なされるためには、労働者があなたの企業へ提供する労働に対して支払いを受けていることが示されている必要があります。そのために、報酬とその支払い時期が具体的に記載されていることが必須です。あなたの企業と労働者との間で合意された具体的な報酬について、雇用契約書にその詳細と構成内容が含まれているかを確認してください。雇用主としても、労働者の報酬の構成内容について透明性を保つ義務があり、雇用契約書はその透明性を提供するための有効な方法です。
また、以下に雇用契約書に記載されるべき報酬について具体的に説明します。
株式・ストックオプション・プロフィットシェアリング:これらのタイプの報酬は特にオランダのテクノロジー企業で見られます。事業の株式を提供することは、労働者への有効かつ合法的な報酬形態です。こうした報酬形態は、会社の経営に責任を持つ立場の労働者へを提供を検討するとよいでしょう。ただし、30%ルーリングのベネフィットを享受している非オランダ人の場合、この形態の所得は30%ルーリングの対象とならない可能性があるため注意が必要です。
年金:年金も有効かつ合法的な報酬形態とみなされます。オランダでは企業の属するセクターによって、労働者に年金を提供することが義務付けられている場合があります。年金の提供が義務付けられていないセクターでは、年金制度を導入することで報酬パッケージをより魅力的なものとすることができ、同業者に差をつけることにもつながります。
交通費:労働者が業務上何らかの交通手段を利用することが予想される場合、それがオフィスへの通勤であれ、クライアント先への訪問であれ、労働者は雇用主から、発生した交通費用の払い戻しを受けることが一般的です。また、雇用主が労働者に対して自家用にも使用できるリース車を提供することも珍しくありません。労働者が個人でリースカーを使用する場合、車の価値に応じて労働者が支払わなければならない税金があることを留意しておきましょう。
その他の手当:雇用主と特定の労働者の間で交渉・合意されたその他の手当も雇用契約書に記載しましょう。例としては、研修の受講に関する手当、転勤手当、また駐在員の場合は子供の学校の授業料、オランダ語研修、母国への帰省費用などがあります。
契約期間
雇用契約がいつまで有効なのかを明記しましょう。契約終了日が決まっているのかどうか、そして決まっていない場合は、契約書にこのことを必ず記載してください。なぜなら、契約期間によって適用される試用期間や退職通知期間など、労働者の権利が異なってくるためです。
試用期間の長さ
オランダでは、雇用契約書に試用期間(proeftijd)が記載されています。この期間中は、雇用主または労働者のどちらもが契約を直ちに終了することができます。試用期間の長さは雇用契約期間によって異なりますが、法律上許されている試用期間は最長でも2か月です。
退職通知期間
退職通知期間 は、雇用契約を終了する前に、どちらかの当事者が他方に与えることが必要とされる期間の長さのことを指します。一般的に、労働者は定められた退職通知期間を守る限り、いかなる理由でも雇用契約を終了することができます。試用期間と同様、この退職通知期間にも法律上の上限があります(雇用契約の長さによって決まります)。また、退職通知期間は雇用者と労働者で異なるということを覚えておいてください。雇用主の通知期間は労働者の通知期間の2倍とされています。
休暇
オランダでは労働者のグロス年俸の8%を休暇手当として支払うことが雇用主に義務付けられています。これは通常、5月または6月に別名「バケーションマネー」として労働者に支払われます。休暇手当の支払いは法律で義務付けられているため、企業としての法令遵守を示す意味でも、雇用契約書に記載することをお勧めします。
また、法律上、労働者は年間を通じて少なくとも20日の有給休暇を取得する権利があります(フルタイムの場合)。こちらも、企業としての法令遵守を示すためにも、労働者が実際に取得できる有給休暇の日数を雇用契約書上に記載しておきましょう。
競業避止義務または企業情報非開示
競業避止義務または企業情報非開示は、企業内でもセンシティブな役割を担う労働者との雇用契約に盛り込むことを検討するべき条項です。これらは、現在および過去の従業員による情報漏えいから貴社を守るために効果的です。この種の条項には、法律のもとで有効期間が定められており、通常それは契約期間の長さに基づいて設定されます。
オランダの雇用契約書の作成について、サポートが必要な場合はオクタゴンジャパンデスクまでまずはご連絡ください。

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