従業員ハンドブックは、就業関連規則を社員に共有するための便利なツールであるだけでなく、会社を法的リスクから守るためにも必要なものです。また、従業員ハンドブックが充実しているほど、会社のオペレーションがスムーズでかつ効率的なものとなります。

今回のブログでは、オランダの雇用主として従業員ハンドブックを作成する際に網羅しておくべき内容および留意すべき点を細かく解説していきます。

これからオランダに進出予定の企業担当者様、および既存の従業員ハンドブックの内容のレビューを検討されている在蘭日本企業のご担当者様、ぜひご参考ください。

法的ツールとしての従業員ハンドブック

オランダでは、雇用主による従業員ハンドブックの作成について法的な義務付けはありません。しかしながら、従業員ハンドブックは、社内の各種手続きや方針を詳細に記述し、雇用主のコンプライアンス遵守を証明するための書類として重要な役割を担っています。それゆえに、裁判の際、従業員ハンドブックはひとつの根拠資料として使用されることがあります。

従業員ハンドブックに関するベストプラクティスのひとつとして、従業員がハンドブックを受け取った後、もしくはハンドブックの内容が更新される度に、従業員に受領および内容承諾の証のサインをしてもらうという方法があります。従業員ハンドブックを法的ツールとして利用する可能性があると想定したとき、普段から雇用主が従業員に社内ルールを十分に周知させていたという明確な根拠として、従業員に受領と内容承諾のサインをもらうことは重要なポイントであるといえるでしょう。

効率的で明確な社内コミュニケーションツールとして

社内の効率的で明確なコミュニケーションは、チームの生産性を高めるためには欠かせません。従業員ハンドブックには社内の各種手続きやその手順について詳細が記載されているため、従業員が社内で特定の手順を踏む必要がある場合には、いつでも参照することができます。従業員ハンドブックに手順が記載されていれば、踏まなければならない手順、責任者、エスカレーションポイントなどを都度議論する必要はなくなります。

また、従業員ハンドブックは、従業員による社内ポリシーの乱用を事前に防ぐという意味でも役に立ちます。具体的な事例を挙げると、例えば在宅ワークのためのホームオフィス備品の購入について、どの備品が会社からの払い戻し対象となるのかをあらかじめ明確に規定していない場合、会社が必要以上の費用を負担しなければならなくなるリスクが考えられます。そうした雇用主としてのリスクを防ぐためにも、従業員ハンドブックは重要な役割を担っています。

従業員ハンドブックと雇用契約書

従業員ハンドブックを作成する際、雇用契約書の内容と重複することがあり、どの情報をどちらに記載すべきかつい混乱してしまいがちです。雇用契約書には法的な記載必須項目がありますが、従業員ハンドブックはそれとは異なり、必須の記載項目はありません。原則、従業員ハンドブックは雇用契約書の内容を補完・補強するものであると考えるとよいでしょう。

一方、雇用契約書は一度双方によって署名されると後に内容を変更することは非常に困難となります。そのため、雇用契約書の必須項目以外について、雇用主として柔軟性を持たせておきたいものについては、従業員ハンドブック内で定めておくことはひとつの方法です。これにより、一度決定した規定について後々変更がきかないというリスクを回避しやすくなります。

従業員ハンドブックで扱うべき一般的項目

以下に、従業員ハンドブックに記載すべき項目をいくつか紹介しています。

  • 行動規範
  • 労働時間と残業についての規定
  • 報酬についての規定
  • 経費についての規定
  • 休暇についての規定
  • 病欠についての規定
  • 解雇についての規定

行動規範

行動規範では、雇用主として従業員に期待する行動・ふるまいを明確にしておきます。行動規範の一般例としては下記のようなものがあります。

  • ソーシャルメディアとインターネットの使用
  • ドレスコード/服装
  • アルコール、薬物、喫煙に関するポリシー

労働時間と残業についての規定

標準労働時間および勤務時間、および残業が必要な場合の承認手順をここでは定義しておきます。近年のリモートワークの普及により、従業員の労働時間および勤務時間帯が見えにくくなっているため、どの時間に必ずコミュニケーションが取れる状態でいなければならないのかも、ここで明確にしておくとよいでしょう。

また、残業の承認手続きを明記しておくことは重要です。従業員が法定労働時間以上働いている場合、社内で残業の承認手順が確立されていない場合、会社はリスクを抱えることになるため注意が必要です。

報酬についての規定

従業員にいつ給与が支払われるのか、また、従業員が享受可能な金銭的ベネフィットとその手続きについて明記しておくことは、雇用主の法的義務とされています。

  • 給与の支払い日
  • 年金について(該当する場合)
  • 病欠となった場合の給与の支払いについて

経費についての規定

従業員が業務遂行上発生する費用を立て替えるという状況はしばしば起こります。取引先との昼食代、事務用品の再注文、在宅オフィス用の備品購入など、それぞれの経費についてポリシーを定めておくことは効率的であり、トラブルを回避することに繋がります。経費承認にあたって必要な手順や経費の承認者についても明確にしておくとよいでしょう。

休暇についての規定

オランダでは、フルタイムで働く従業員は年間最低20日の有給休暇を取得する権利があります。従業員ハンドブックに休暇およびその申請手順を詳しく記載することは、雇用主が法定休暇に関してコンプライアンスを遵守していることを示す根拠となります。

病欠についての規定

オランダの法律のもとでは、病欠の従業員ができるだけ早く職場へ復帰できるよう、病欠の従業員と雇用主双方に様々な義務が課せられています。それゆえに、病欠時の各種手順、求められる行動、義務を従業員ハンドブックに規定することは非常に重要です。

  • 病欠中のコミュニケーション手順やその頻度
  • 病気の従業員の職場復帰のために会社が行うこと
  • 病欠時の休暇申請手順
  • 回復時の報告手順 等

解雇についての規定

従業員ハンドブックの中に記載しておくべき最も重要な項目のひとつは解雇に関する規定です。解雇についての規定を作成する際に考慮すべき点は、以下の通りです。

  • 通知期間
  • 和解金または退職金の支払いについて
  • 会社の貸与物の引き渡し手続き

オランダ人事専門家による従業員ハンドブック作成サポート

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